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【コラム】自己愛性と革新性のマーケティング-強烈な自己愛が革新的差別化を生む可能性に注目-

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2018年夏のワイドショー番組の主役と言えば、自らを「世界の山根」「カリスマ山根」と言い切った山根明・元日本ボクシング連盟会長を置いて他にいまい。

心理学の視点で彼を分析するならば、自己愛が強いということに尽きよう。この性格が日常生活に支障を及ぼす場合は、「自己愛性パーソナリティ障害」として病気扱いされることもある。ちなみに自己愛性パーソナリティ障害の主な特徴は以下の通り(メイヨークリニック資料より抜粋)。やはり、世界の山根さんを彷彿とさせる。

人より優れていると信じている
権力、成功、自己の魅力について空想を巡らす
業績や才能を誇張する
絶え間ない賛美と称賛を期待する
自分は特別であると信じており、その信念に従って行動する
人の感情や感覚を認識しそこなう
人が自分のアイデアや計画に従うことを期待する

ただし、以前から「自己チュー(自己中心的)」「自己陶酔」「自意識過剰」などと揶揄されてきた気質とさほど変わりない気もする。その意味で別にまぁ今に始まった話ではないわけだが、最近は特にこの手の話題が多いような気がしてならない。皆さんはどう思いますか?

自己愛性を、マーケティングの視点で考えるとどうだろうか。

ドラッカーの名言「真のマーケティングは顧客からスタートする」を引用するまでもなく、顧客の視点が最重視されるマーケティングにおいては、常識的に考えて自己愛性はともすれば顧客軽視につながりかねない困りもののはずだ。
しかし、現実のヒット商品、特にブランド力の高い製品やイノベーション(革新性)の強い製品ほど、むしろ自己愛性が重要な役割を果たしているように思われてならない。

その典型例が、アップルの劇的復活を成し遂げたスティーブ・ジョブズ氏とiPod・iPhone・iPadなどの革新的な製品群だろう。事実ネットをはじめとして、ジョブズ氏を自己愛性パーソナリティ障害と断定している記事のなんと多いことか。自己中心的なダメダメなエピソードですら、彼にかかれば逸話となっている。

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では改めて、マーケティング的に見て、強烈な自己愛性はアリなのか、無しなのか? 
結論的に言うと、秀逸な天才に限っては、大いにアリだと考える。いやむしろそのような天才の場合は、自己愛性こそがイノベーショナル(革新的)で強い差別化を生み出す最大のドライブになるのではなかろうか。

イノベーションを経済用語として初めて定義したシュンペーターによると、その本質は非連続性だ。とは言え、無から有を生むような無理難題を期待しているのではない。
既存要素の単純な組み合わせであっても、結果として過去の延長線上でない突然変異が実現するとき、シュンペーターはそれをイノベーションと呼んだ。
身近な事例を示すと、演歌と黒人歌手という常識的には「水と油」の要素を組み合わせて生まれた人気演歌歌手のジェロさんも立派なイノベーションである。

前述のiPodもそれまで存在したソニー・ウォークマンとは似て非なる革新的な製品だと思うが、登場した頃は「既存部品を組み合わせただけ」とか「ウォークマンの曲数が増えただけ」、「中身の部品はほとんど日本製なのに日本メーカーはなぜ企画できなかったのか」などの否定的な意見も多かった。
最新の小型ハードディスクを収めて保存できる曲数を増やしたというモノレベルの連続性だけで捉えれば、そのような否定的意見もあながち間違ってはいまい。しかし、iPod発表の場でのジョブズ氏の発言が、同製品の革新性を雄弁かつ的確に示している。

なぜ音楽なのか? それは私が、音楽が好きだからです。音楽は全ての人の生活の一部ですし、常に私たちと共にあります。
iPodの最大の特徴は1000曲を入れられることです。多くの人にとって、手持ちの全曲に近い数でしょう。iPodの最もクールな点はすべての曲をポケットに入れて持ち運べることです。

つまりiPodの本当の革新性とは、携帯できる曲数をグンと増やすことで音楽との付き合い方を、さらに言えば音楽を通じた人生の楽しみ方を、ウォークマン時代とは非連続的に変えたことにある。だから、多くの消費者はiPodに新しい未来の始まりを感じたのではなかろうか。
そしてiPod誕生の原点には、ジョブズ氏自身が大の音楽好きで、好きな曲をすべて持ち運びたいという願望があったのだ。

とはいうものの、その製品開発は実に困難を極めたという。技術陣に対してパワハラと糾弾されてもおかしくないほどの大変な苦労を強いたというエピソードに事欠かない。試作品を見せて「これ以上の小型化は無理です」と懇願する技術者に対して、その試作品を水槽に沈めて「出た泡の分だけ小さくできるだろ」と返したやり取りが有名だが、このような紆余曲折を経て最終的に自らの願望を製品化できた背景には、やはりジョブズ氏の強烈な自己愛性が垣間見られる。

ちなみに、このジョブズ氏のように「既存の秩序や常識を打ち破り、頭角を現す革命的な風雲児」は総じて「トリックスター」と呼ばれ、マーケティング用語としてもたびたび用いられる。
ほかにはアマゾンのベゾス氏、テスラのマーロン氏、ソフトバンクの孫氏、古くは本田宗一郎氏などが、ビジネス界におけるトリックスターの代表選手と言ってよいだろう。
彼らには無茶ぶりで周囲を困惑させるという共通点があるが、やはりそれも強烈な自己愛性の副作用と考えれば合点がいく。

自己愛性はWEBマーケティングでも大いなる武器になるだろう。

例えば、製品の作り手・売り手の熱い思いを前面に出すようにサイトをデザインしてみるのもその一つ。ただしその大前提として、自分自身が天才に値するのかの吟味が不可欠なのは言うまでも無かろう。
冷静に考えると、天才の呼び名にふさわしい人はごく少数だ。その意味で、大半のケースではセオリー通りに顧客視点を徹底することが無難だし、正解なはずである(それはそれで実は難しいのだが・・・)。
しかし、それでも「自分は天才だ」と確信できる人は、顧客重視のマーケティングセオリーに背いてでも、自己愛性をとことん貫くマーケティングを実践していくべきだと考える。
最後にそのような猛者へのエールとして、ジョブズ氏が復帰した直後のアップルが全世界に放った名広告の締めの一節を紹介したい。

彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う。
自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから。




この記事の作者

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四元マーケティングデザイン研究室
代表 四元正弘

1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。
サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。
1987年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表を務める。

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