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Web行動心理学研究所は、ディスプレイ広告のパフォーマンスを向上させるため、株式会社インフォデックスが外部有識者の皆さんと共に運営している研究チームです。 ユーザーがWeb広告と接触して反応する際の「行動心理」について、基礎的な研究やテスト配信に基づいたデータの蓄積~公開を行っています。 ブログでは、マーケティングや広告制作に活用できそうな行動心理の紹介や、行動心理を適用したバナーを実際に広告配信をして広告効果を検証したレポートなどを掲載しています。

「コミットメントと一貫性の法則」が促進するフリーミアム戦略|あえてひと手間をかけさせて顧客ロイヤリティを高めよう


株式会社インフォデックス"


マーケティングでは、教科書的な理にかなった正攻法を取ったにも関わらず、結果的に不本意な失敗に終わってしまうことがときに起きる。

その原因は「人は理だけで動くものではない」ということに尽きるのだが、それを実感するため、実話を基にした以下の問題にまずは挑戦してみていただきたい。

問題:
1940年代の米国、水を入れてかき混ぜて焼くだけで簡単にパンケーキが出来上がる画期的な商品「ケーキミックス」が発売されたが、当初は思うように売れませんでした。しかし「改悪」とも思える思い切ったリニュアルをしてから売上が急伸。さて何をしたのでしょうか?
ちなみに味の変化は全くありません。

答えは、「当初の製品に含まれていた卵と牛乳の成分を取り除き、牛乳と卵もわざわざ自分で入れるようにひと手間をあえて増やした製品に変えた」というもの。で、これで爆発的に売れるようになったという。

常識的に利便性を高めることは、消費者にとって無条件に好ましいことだと信じられている。確かに大半のケースではそうだろう。しかしこのケーキミックスの場合のように、利便性をあえて低めるという「改悪」を施すことで消費者価値がむしろ高まることも起きるのである。

ラクをしたい。けど、、、ほめてほしい!

この現象を心理学的に種明かしすると、人は「できるだけ楽をしたい」という利便欲求を持っている一方で、「自分を認めてほしい」という承認欲求も持っている。このパンケーキを作るシーンを想像すると、「子供におやつを作ってあげようとキッチンに立っているお母さん(=購買者)」が目に浮かぶ。彼女はできるだけ楽をして作りたいと本心では思っているだろうが、子供から「美味しいね、ありがとう」と感謝されたくもある。

だから、あまりに簡単に作れてしまうと手抜きと思われるのではないかと恐れて、これくらいの面倒で済むのであればひと手間を要する商品にむしろ魅力を感じるわけだ。あ~、人間って面倒くさい(笑)

これが話題の「イケア効果」?

株式会社インフォデックス"

さて、このケーキミックスの事例ではこの承認欲求が消費動機の一つだと考えられるわけだが、それに加えて別の角度から考えると、仕方なくにせよ、ひと手間をかけた対象の価値を無意識に高く感じてしまうという別の心理効果も大いに影響していそうだ。

最近ではこの心理効果のことを、「イケア効果」と呼ぶことも多い。出来合いの高級家具よりもイケアで買って自ら手間暇かけて組み立てた家具の方に、より強い満足感を覚える購入者が多いことがその名の所以だ。

まぁ確かにわかりやすいしキャッチーな名称だが、心理学的に昔から一般的に使われているのは「コミットメントと一貫性の法則」という名称だろう。これは、「コミットメント(関与や意思表明)した対象を実態以上に高く評価するほか、コミットメントの一貫性を守ろうとする」という無意識の心理ルールである。
人がコミットメントした対象を高く評価する背景には、関連して費やした時間やお金、気持ちを無駄にしたくないという心理が潜んでいるからだ。


例えば性格判断や占いを題材とした心理学実験では、①血液型や星座等ですぐに判明する、②生年月日の入力やごく簡単な計算などのひと手間をあえて課す、の2パターンを用意した場合、「あなたの性格は・・・」という本文が全く同じにもかかわらず、「ピッタリ当たっている!」と高く評価する人は①よりも②の方で顕著に多いという実験結果がある。

また、コミットメントすなわち言動を一貫させたいのは、関係者の期待を裏切らずに済んで結果的に得になることが多いことを経験上学んでいるから、と言われている。

ただしこの場合の経験とは、本人の実体験のほかに、親や先人の訓戒や昔話も疑似的に機能しているようだ。

巧みなマーケティングを実現!「コミットメントと一貫性の法則」

そして、実際に「コミットメントと一貫性の法則」を活かすことで、巧みなマーケティングを実現できる。最も代表的な事例が、付録付きの週刊誌として有名なデアゴスティーニの雑誌だろう。

いろいろなシリーズがあるがいずれもマニアックなファン向けで、各号には組み立て部品の付録が付いてくる。最終的に100号ぐらいで完成するが、初回の創刊号だけは非常に安くて思わず衝動買いしてしまう人も多いようだ。しかし最終号まで購入して完成させるには、なんと10~15万円も要する。

「そんな大金を出してまで全巻を購読する人なんて本当に要るの?!」と私個人的には突っ込みたくなるが、それでも様々なテーマで次から次へと発行されているのだから、購読者はかなり多いと考えられる。


その背景として、創刊号を含めて最初の数号を買うのに要した代金や組み立て時間を無駄にしたくないから、半ば仕方なく雑誌を買い続けてしまうという一貫性の法則が強い購入動機となっていることは疑う余地がない。しかも、自分で組み立てた完成品に対して、市販品よりも高い価値を感じて悦に入ってしまうというわけだ。

そのほかにも、初回無料もしくは極端な廉価でトライヤル客を集めたうえで、一貫性法則(始めたら止めにくい)とコミットメント法則(続けていると良いものに思えてくる)を背景に、長期リピート顧客を育てていくビジネスモデルを採用している事例が数多くみられる。

それらを総称する「フリーミアム」(無料:フリー+高価:プレミアム)というマーケティング用語もあるほどだ。

まとめ

このフリーミアム戦略が特に有効だと言われているのが高級な化粧品や健康食品などの分野である。上手くいけば半永久的にリピート購入してもらえるという意味で、最終号があるデアゴスティーニよりも適しているかもしれない。

そして、この化粧品・健康食品という商材がネット通販と非常に相性が良いのも周知の事実である。今後のネット通販のさらなる拡大を期するうえで、フリーミアム戦略は極めて重要な視点だと言えそうだ。

ただし、その背後に「コミットメントと一貫性の法則」「イケヤ効果」などの心理ルールがあることをお忘れなく。繰り返すが、教科書的な理屈だけでは消費者を思い通りに動かせないことが、世の中には多いのだから。


この記事の作者

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四元マーケティングデザイン研究室
代表 四元正弘

1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。
サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。
1987年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表を務める。


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