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Web行動心理学研究所は、ディスプレイ広告のパフォーマンスを向上させるため、株式会社インフォデックスが外部有識者の皆さんと共に運営している研究チームです。 ユーザーがWeb広告と接触して反応する際の「行動心理」について、基礎的な研究やテスト配信に基づいたデータの蓄積~公開を行っています。 ブログでは、マーケティングや広告制作に活用できそうな行動心理の紹介や、行動心理を適用したバナーを実際に広告配信をして広告効果を検証したレポートなどを掲載しています。

男と女で異なる「消費心理のツボ」。女性のツボはストーリーで動かせ なぜ、インスタントコーヒーは当初売れなかったのか?


株式会社インフォデックス"

1960年代の米国でフリーズドライ(真空凍結乾燥)のインスタントコーヒーが登場した。
それ以前のインスタントコーヒーは、高温で水分を蒸発させていたために酸化が進んで「簡便だが不味い」が常識だった。しかし、フリーズドライにより「簡便でしかも美味しい」を初めて実現できた。まさに非の打ちどころがない画期的な商品の誕生である。

「全然売れない!そうだ心理学者に相談しよう!

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事前のテストマーケティングでも、多くの既婚女性が「発売されたらすぐに買いたい」と高く評価したという。そこでメーカーは大ヒットを確信し、「簡便かつ美味」をストレートに訴求する宣伝で大々的に発売を始めた。

ところが、実際の売れ行きは予想を大きく下回ってしまう。販売不振の原因が判らないメーカーはダメ元である心理学者に相談したところ、彼はある心理実験を通じて購入を躊躇させる既婚女性特有の心理を発見。さらにはTVCMの微修正を提言した。

そして、半信半疑ながらアドバイスに従って編集し直したTVCMの放映が始まった途端に、爆発的に売れ始めました、とさ。めでたし、めでたし・・・

爆発的なヒットの裏は「男性脳・女性脳」?

なぜ画期的なインスタントコーヒーは当初、既婚女性に嫌われたのか。そして、心理学者はどのようなアドバイスをしたのか。

この謎解きをする前に、「男性脳・女性脳」を簡単に説明しておこう。これは、脳科学者A・K・プラディープが書いた『マーケターの知らない「95%」』(阪急コミュニケーションズ、2011年)で示されている概念だが、私なりに整理してみた。

ちなみに、原始人からの長い人類史の中で、男女の役割や経験の違いが思考パターンや価値観の決定的な男女差を形成したと考えられている。

女性型思考パターン・価値観(女性脳)

・共感能力や集団適応能力が強い。
・悩みを共有したり、同意したりしあえる仲間の存在が重要。
・本能的な勘や直感が鋭敏。
・過去の感情の記憶力が強い。
・家族・社会・仲間など帰属先の全体的な幸せを重視。
・小さい子供がいる場合、子供の安全や幸せが最優先で、判断基準の源に。

【コミュニケーションの基本方針】
・共感的・情緒的なコミュニケーションを好むので、物語形式の方が伝わりやすい。
・語りかける様な表現が有効。たとえば、「○○にお困りでは?」など。
・家族、仲間の笑顔のシーンが不可欠。

男性型思考パターン・価値観(男性脳)

・自立を尊び、他者への依存を嫌う。
・過度の自己肯定をすることが多い。
・一人でコツコツと孤軍奮闘しがち。
・自分にとっての利害で判断しやすい。
・共感や交流が苦手で孤独に陥りやすく、漠然とした不安感が強い。
・自身の関心や目の前の課題の解決に集中しやすい。
・理論的・体系的に整理することが得意。

【コミュニケーションの基本方針】
・情緒的な表現よりも、単刀直入なコミュニケーションを好む。例えば「Just do it!」や「この機能がすごい」のような表現に反応しやすい。訴求は簡潔かつストレートに。
・「夜中に一人で頑張る」等の、缶コーヒーでよく見られるCMが典型例。


出典:『マーケターの知らない「95%」』を参考に筆者作成

インスタントコーヒーのヒットは、女性脳の攻略

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ではインスタントコーヒーの顛末を、男性脳・女性脳をヒントに謎解きしてみよう。

まず、「簡単で美味」という機能訴求は男性型である。これでは同商品の主要購入者である既婚女性にはアピールしないばかりか、使用者自身のメリットを強調しすぎるために、家族や子供の幸せを無意識に最重視する女性脳には受け入れられない。

事実、心理学者は心理実験を通じて、「インスタントコーヒーを重宝する主婦は自己中心的で家族を愛していない」というネガティブなイメージが既婚女性に無意識に持たれていることを突き止めたのだった。

そこで、その心理学者は「朝食時の家族団欒」シーンを広告の最後に挿入することを強く提案した。
その狙いは、「簡単で美味」なのでコーヒー準備の手間が緩和され朝食時に時間の余裕が生まれる。だから家族全員で朝食テーブルを囲めるようになる、という物語性を明示し、刷り込むことにある。そして実際にネガティブなイメージを一掃して、主婦層を射止めることに成功した。

言い換えれば、インスタントコーヒーの訴求ポイントを男性脳の簡便化から、女性脳の家族団欒へとシフトさせて大ヒットに結びつけたわけだ。
歴史に「もしも・・・」はない。しかし、もしも当初から男性脳・女性脳の違いを理解し、取り入れた宣伝をしていれば、こんな要らぬ苦労をする必要は無かったことだろう。

マーケティングの本質

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消費者が真に求めているのは、決して商品ではない。商品がもたらしてくれる、幸せや満足感である。そう考えると、マーケティングの本質とは「消費者の笑顔にとことんこだわる」姿勢にほかならない。

具体的には、「この商品は、誰の、どんなときの笑顔を作ったり増したりするのか」を常に想像しながら、笑顔に至るまでの消費者のストーリーを紡いでいくことを提唱したい。

例えば、ガン保険のマーケティング戦略を考える際には、ガンを「死んだり、お金がかかる厄介者」ではなく、「本当にやりたいことに気づかせてくれる好機」と捉えなおすことで、笑顔に結びつく新価値を提案して差別化していく、などだ。

それはwebマーケティングにおいても全く同じこと。ただし、消費者の笑顔のビジュアルを露出すれば万事OK、などと小手先の表現ノウハウではもちろん全くない。

重要なのは、「笑顔に至るまでの消費者のストーリー」である。一流のマーケティングは、ストーリーテリングの要素を抜きに考えられない、と確信する。


この記事の作者

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四元マーケティングデザイン研究室
代表 四元正弘

1960年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。
サントリー(株)でワイン・プラント設計に従事し、発明協会賞を受賞。
1987年に電通に転職。メディアビジネスの調査研究やコンサルティング、消費者心理分析に従事する傍らで筑波大学大学院客員准教授も兼任。2013年3月に電通を退職し独立、現在は四元マーケティング研究室代表を務める。


・プロフィール
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