Web広告で、「この商品は、○○してお使いください」といったコピーを見かけたことはありませんか?
これは、ミルトン・エリクソンが提唱した「ダブル・バインド」を応用したコピー。相手を何かに誘導したいとき、それが実行されることを前提条件として語り掛けると、相手は実行へのハードルがグンと下がったように感じるのです。
上記のコピーを例にすれば、購入したことを前提として使用上の注意が語られているので、ユーザーは自分が購入した時のことをありありと想像し、購入意欲が上がるわけです。今回は、そんなダブル・バインドの使い方についてご説明します。
ダブル・バインドとは
そもそもダブル・バインドとは、精神医学者のグレゴリー・ベイトソンが発見したコミュニケーションパターン。言語メッセージと非言語メッセージで矛盾するコミュニケーションをとられると、対象者は混乱し、コントロールされやすくなってしまうというものです。
例えば、あまり親しくない人が、突然無表情で「あなたは素晴らしい人だ。私はあなたが大好きだ」と話しかけてきたら、混乱すると思いませんか? その結果、「この人は何を言いたいのだろう?」と相手の意志を理解しようとしすぎ、コントロールされてしまうのです。使い方によっては相手を洗脳しかねない、恐ろしい手法ですね。
しかし、コピーに利用できるダブル・バインドは、ミルトン・エリクソンがさらに発展させた理論。相手にさせたいことがあるとき、それが実行されたことを前提条件として語り掛けることにより、対象者を誘導する手法です。特に、誘導したい行動や状況を前提条件として「Aがいい? Bがいい?」と、どちらかを選ばせれば、その前提条件に導きやすくなるといわれています。
ダブル・バインドでデートに誘うには
具体的な例をあげましょう。例えば、誰かに「まだ一緒に出掛けたことはなかったよね」と言われて、「確かにこの人と一緒に出掛けたことはなかったな」と考えたとします。日常的にありそうな会話ですが、「いつか一緒に出掛ける」ことが前提となっているのに気づいたでしょうか。
このような心理に誘導したうえで、「二人で出かけるなら、海がいい? 映画がいい?」と質問すれば、相手はついその光景をありありと思い浮かべ、一緒に出掛けるのが決定事項のように感じてしまいます。
そこで、相手が、「どっちかと言われたら映画がいいかな」と答えたら、「それじゃあ今、○○が評判だから、土曜日にどう?」と重ねて尋ねればよいのです。ダブル・バインドの手法を使えば、デートが実現する確率は、グッと高まるかもしれません。
「デートには出かけない」という「選んで欲しくない選択肢」をあらかじめ想起させないようにするテクニックです。
利用シーンを想起させるキャッチコピーとは
これをキャッチコピーに応用してみましょう。例えば、日本酒なら、
「冷やして飲むか、温めて飲むか」
というキャッチコピーを目にしたら、
「このお酒は味わい深そうだから、家で飲むなら燗がいいな」と、
具体的にどうやって飲むかを想像してしまいませんか? いつの間にか、この商品を購入することが決定事項になっているのに気づくでしょう。
このように、購入したことを前提とするキャッチコピーは、ユーザーにその商品を買ってからの情景を具体的にイメージさせ、つい商品に手を伸ばしてしまわせる力があります。
また、キャッチコピーの下に、「冷たく冷やしてお飲みください」という注意書きを入れるのも効果的です。この注意書きを読んだユーザーは、「そうか、冷やして飲むとおいしいのか」と考え、無意識に「購入して飲む」シーンを具体的に思い浮かべるでしょう。
そしてそのシーンが自分にとって心地よいものであれば、「妻と一緒に、縁側で涼みながら飲んでみようかな」と、購買につながるのです。
もちろん、いくら上手に相手を誘導しても、もともとお酒が飲めない人が購入に至ることはありません。どんな広告でも、まずその商品に対して好意的な印象を持ってもらうことが大切なのは当然です。
しかし、好意を持ってもらうだけでは、購入にはつながりません。ダブル・バインドの知識を使ってユーザーを「買った気分」にさせ、購買意欲をかきたてるのが肝心なのです。
要約
ダブル・バインドは、「購入した気分」にさせてしまう手法。購入したことを前提にして、アイデアや使用方法を提示すると、ユーザーはその商品を購入した後のことをありありとイメージします。コピーに応用して、購買意欲を掻き立てましょう。(120字程度)